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ほ

帆

宮本 百合子

「文芸春秋」1927(昭和2)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,973 字 · 25 页

青空文庫

それは、旅行案内で藍子も見たが、乗換の工合がわるくて駄目なのだ。いっそ、次の列車で銚子まで行ってやろうか。切符を買いかけ、然しと思うと、それも余りいい思いつきとは思われず……癖で、左の人さし指で鼻の横をたたきながらぐずぐずしているうちに、藍子は立花に小さんがかかっているのを思い出した。彼女は、兎に角それをきいて、今夜は一旦家へかえることにしバスケットを一時預けにして、両国橋を渡った。

翌日の午後、藍子はぶらりと尾世川を訪ねた。尾世川は昨日稽古をすっぽかしたことを頻りに弁解し、

「どうです、よかったらこれから少し埋め合わせしましょうか」

と云った。

「さあ……私両国へ行かなくちゃならないから」

「何か御用ですか」

「バスケットが駅に預けてあるんです」

藍子は簡単に昨夕の出来ごとを話し、

「どうも一足でも東京を出ないうちは、虫が納まらないらしい」

と苦笑した。

「いや、いい気候ですからな、誰だって遊びたいですよ。まして貴女は旅行好きだから」

去年の、やはり五月、藍子が五日程行っていた赤城の話をしているうちに、尾世川まで段々乗気な顔つきになって来た。

「何だかどうも私の尻までむずついて来た。