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じょうしき

常識

豊島 与志雄

「改造」1934(昭和9)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,237 字 · 33 页

青空文庫

何もかも知りながら高くからあなたをいたわってるような風を装った。だが他人から見れば、あなたに引ずられてるように見えたかも知れない。あなたは無頓着な高慢な態度を持ち続けていた。その側で私は、もしあなたと結婚したら……などと自嘲的に考えながら、ともすると暗い気持に沈むのだった。結婚、ただそれだけの考えが、針のように私の心を刺すのは不思議だった。そういう時私は、わざわざあなたに寄り添って歩いた。カフェーの明るい光のなかで、あなたの側で、女給に戯れてもみた。ホールの明暗の色彩のなかで、じみな凝った日本服のあなたを我物のように抱いて、ステップはいい加減に、バンドのつまらない音楽に耳を澄した。そうした私の調子外れに、あなたは好奇な楽しみを覚えたのであろう、ちらと、眼ではいぶかしげな視線を送って、あでやかに笑って見せた。

そしてあの晩、私は妙に神経が疲れて、早めにダンスホールを出て、あなたを自動車で先に帰して、一人街路を歩いたのだった。気持のせいか街燈の光に力なく、雨でもきそうな空合らしく思われた。私はただ真直に歩いた。そのうち、誰からか後をつけられてることを感じた。