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じょうしき

常識

豊島 与志雄

「改造」1934(昭和9)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,237 字 · 33 页

青空文庫

酔っていつまでも飲み続ける島村の酒量は、話の種もつきた折の座の白けを救う助けとなるのであったが、岡部の饒舌はそれよりもっと効果があった。彼の話はいつも尤もで、随って平凡で退屈だったが、飲み疲れたり語り疲れたりした場合には、そんなのが穏当なつなぎとなるものである。だがその晩、彼の平凡な退屈な饒舌には何かしら神経的なものがあって、沈黙を恐れてるもののようだった。初め島村と村尾と坪井とが飲んでいて、そこへ後から彼はやって来、つかまって仲間にはいったという事情もあるし、三人とは気合がしっくりいかないという点もあったが、そんなことよりも、時としては太々しいという感じを与えるほど落付いてる彼の態度に、うわついたところがあった。そこへ、電話だった……。

その時彼は少女の心理というようなことを論じていた。みよ子が銚子をもってやって来たのを、じっと見やって、だんだん綺麗に女らしくなるじゃないかと、それも坪井に対する皮肉やあてつけではなく、まじめな調子で云いだしたのがきっかけで、昔、女学校の教師をしていた時のことを話していた。その頃彼はまだ独身だったが、独身の若い教師というものは、女学校では、その一挙手一投足が生徒たちの注目の的となる。