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ばくまついしんかいこだん

幕末維新懐古談

高村 光雲

17 猫と鼠のはなし

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,467 字 · 9 页

青空文庫

今日もそれらの用向きで参られて、師匠と店頭にて話をしておられました。と、ふと、坊様は、師匠に向い、

「先刻から、あの棚の上に鼠がいるので妙だなと思っていたのだが、あれは本当の鼠ではないのですね。彫り物なんですね。誰が拵えたのですか」

といいながら、起って、その鼠を棚から卸して来て、掌に乗せて、つくづく見ながら、

「これは、どうも、まことによく出来ている。本物と私が見違えたのも無理はない。誰が彫ったのですか」

坊様の興味ありげな言葉に、師匠も初めて心附き、それを見ながら、

「これは、あの幸吉のいたずらでありましょう」

と答えました。

「そうですか。彼児がやったのですか。これは私が貰って置きたい。私は実は子の歳なので、鼠には縁がある。これは譲ってもらいましょう」

「それはお安いことです。幸吉は今使いに参っておりませんが、いたずらにやった鼠がお目に留まって貴僧に望まれて行けば何より……」

と、紙に包んで坊様に呈げてしまいました。

すると、坊様は、折角、幸吉が丹念に拵えたものを只で貰うは気の毒、これを彼児へお小遣いにやって下さいと一分銀を包んで師匠へ渡しました。

私は留守のこと故、その場の容子は見てはいませんから知りませんが、まずこうした順序の妙な事が起ったのでありました。