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へいたんならぬみち

平坦ならぬ道

宮本 百合子

国民文学にふれて

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,375 字 · 9 页

青空文庫

自我に対抗し、個的な自我を純文学の名において固守して来た作家たちも、本質的展開のないまま、更に一層萎靡した自我を抱いて、満州事変の開始された日本の現実の中につき放たれたのであった。

当時の文学的混乱がどんなに激しかったかは、今更くりかえす必要もなく、私たちの記憶に新しいことである。

民衆の文学という声があげられたのは今日から凡そ三年ばかり前のことだが、その呼び声は、主として従来からの所謂純文学作家・評論家たち、即ち新しい文学が小市民的な個的な自我を、より多数・広汎な綜合的我の歴史的登場のうちに解放し成育させようとした期間、それに対して、種々な文学的表現の下にやはり個的な我を主張しつづけて来た人々によってあげられたということは、今日の国民文学の声の発生の場所と思い合わせて実に意味ふかく考えられる。

当時いわれた民衆の文学の本質の特徴は、その文学の世界をつくり出す因子として、その文学の運命の担いてとしての民衆生活と作家の内的世界との統一のことはいわれないで、これまでそれ等の作家・評論家たちが、一握りの知識人として庶民のくらしとは隔絶した日常のなかで語り書きして来た文学的所産の単なる読者として、その消費者、購買者としての多数人へ示された関心であったという事実である。