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としのせのおと
年の瀬の音
山本 周五郎
「朝日新聞」1958(昭和33)年12月31日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,241 字 · 5 页
十二月になると一日一日に時を刻む音が聞えるようである。ほかの月にはこんなことはないし、そんな感じのすることがあっても、十二月のそれほど脅迫感はない。いまこの原稿を書いていながら、私は現実にその時を刻む音を聞きその音の速度の早さと威かく(嚇)とに身のちぢむのを覚えているのである。
ひるめしを食べに出て、市電で仕事場へ帰る途中、私の前へ若い人妻が立った。背中に赤児を背負い、五歳くらいの女の子をつれている。人妻は二十六か七、色のさめた赤いセーターにネズミ色のラシャのスカート。ウエーブの伸びた髪毛が乱れて、細おもての青ざめた顔はこわばり、みけん(眉間)には疲れたような、神経質なしわが深く刻まれている。おちつきを失なった眼は絶望した人のように、するどく一点をみつめていた。女の子は片手で母親のスカートにつかまり、片手に半分を紙で包んだキャンデーを持っていて、それをしゃぶりながら母に呼びかけるのであった。
「かあちゃん、おばちゃんに会えてよかったね、ねえかあちゃん」
若い母親は一点をみつめたまま答えない。「かあちゃん」とまた女の子は呼びかける「ねえ、おばちゃんがうちにいてよかったね」