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ねんがゆうびん
年賀郵便
岡本 綺堂
「モダン日本」1935(昭和10)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 1,513 字 · 3 页
その以来、年賀郵便は年々に増加する。それに比例して回礼者は年々に減少した。それでも明治の末年までは昔の名残りをとどめて、新年の巷に回礼者のすがたを相当に見受けたのであるが、大正以後はめっきり廃れて、年末の郵便局には年賀郵便の山を築くことになった。
電車が初めて開通した当時は、新年の各電車ことごとく満員で、女や子供は容易に乗れない位であったが、近年は元日二日の電車でも満員は少い。回礼の著るしく減少したことは、各劇場が元日から開場しているのを見ても知られる。前にいったようなわけで、男は回礼に出る、女はその回礼客に応接するので、内外多忙、とても元日早々から芝居見物にゆくような余裕はないので、大劇場はみな七草以後から開場するのが明治時代の習いであった。それが近年は元日開場の各劇場満員、新年の市中寂寥たるも無理はないのである。
忙がしい世の人に多大の便利をあたえるのは、年賀郵便である。それと同時に、人生に一種の寂寥を感ぜしむるのも、年賀郵便であろう。