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こうふくのはさみ
幸福のはさみ
小川 未明
「婦人界 6巻11号」1922(大正11)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,458 字 · 9 页
父親は、そのおじいさんの顔を見ると、びっくりしました。ずっと前に、この世から亡くなられた自分のお父さんに、その面ざしが似ているからでありました。
おじいさんは、黙って下を向いていました。正吉の父親は、その前に立って、はさみを見ながら、いろいろのことを思い出していました。
「おじいさん、このはさみをくださいまし。」と、父親はいいました。
すると、黙って下を向いていたおじいさんは顔を上げました。
「こう寒くなっては、どこの家でも冬着の仕度をせにゃならん。このはさみを使った人は、みんなにしあわせがくるから、楽しみにしていなさい。」と、おじいさんはいいました。
正吉の父親は、自分は男で、着物を縫えないが、だれか人にたのんで、子供にだけなりと暖かい着物を着せてやりたいと思いました。父親は、ずっと以前に、この世から亡くなられて、忘れかかっていた父親の顔を、おじいさんを見て、はっきりと思い出しました。
「おじいさんも、かぜをひかないようにお大事になさいまし。」といって、父親は、子供が待っているだろうと思って、急いで家へ帰りました。
明くる日の朝、あられが降って、あたりはいっそうさびしくなりました。