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まぼろしのかなた

幻の彼方

豊島 与志雄

「中央公論」1922(大正11)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 41,763 字 · 84 页

青空文庫

円っこい凸額だった。

何を考えてるのかしら?

余りに頼り無い小ちゃな存在だったのが、いつしかしっかり根を下して、自分の運命を荷おうとしていた。その存在と運命とが――以前別々なものとなって順造の眼に映ったのが――一つに結び合されるのを見て、彼は突然云い知れぬ愛着を感じ出した。

胸に抱き取って、いつまでも庭を歩いてやった。和やかな初春の外光が、その瞳にちらちら映っていた。まぶしそうな渋め顔をしているのが、たまらなく可愛かった。

そういう彼の様子を、竜子は不思議そうに眺めた。

「どうしてそう急に可愛くおなりなすったのでしょうね?」

その眼は皮肉な色に鋭く輝いていた。

お前が妊娠したせいだ! と彼は心の中で叫んだ。理屈ではなかった。じかにそう感ぜられた。

彼は出来るだけ順一の側についていた。他の座敷に居る時順一の泣声が聞えると、すぐ飛んで行った。なぜ泣かせるんだ、と竜子を叱った。順一が顔を渋めてると、おしっこだ、襁褓を取代えてやれ、と竜子へ云いつけた。一日置きには風呂を沸かさせて、自分で入れてやった。

恐ろしい闘いが来そうな気がした。

然し彼は、つとめて竜子へ滋養分を取らせた。