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ゆうれいぶね

幽霊船

小川 未明

「赤い鳥」1924(大正13)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,633 字 · 8 页

青空文庫

三人の中の一人は、島に残りました。二人が夜帰ってくるときに、島で火を焚いて合図をしようとしたからでした。乙の男だけは、だれもいない島に残って、甲と丙の二人が、勇ましい掛け声をしながら、湾から沖の方へ出てゆくのを見送っていたのであります。

「早く帰ってこいよ。」と、乙は、仲間の二人に向かって、いいました。

「ああ、おまえがさびしがっているから、じきに引き揚げてくるとも……。」と、二人は、笑いながら、だんだんと遠ざかったのです。

穏やかな夕暮れでした。乙は、じっと船を見送っていますと、いつしか、青黒い沖の間に隠れて見えなくなってしまいました。子供のころから、海を畳の上のように思っている人たちでありましたから、この荒々しい海をもおそれてはいませんでした。

日が暮れると風が出てきました。それは、思いがけない突然のことでした。急に、浪が高くなってほえはじめました。乙は、沖に出ていった二人の友だちの身の上を心配しました。

「どうか無事に、早く、この島まで帰ってきてくれればいい。」と、祈りながら、火を焚いて闇の夜をこいでくる目じるしを造ろうとしました。そのうちに、風雨と変わって、せっかく燃え上がった火が、幾たびとなく吹き消されたのです。