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ひろばのベンチ

広場のベンチ

豊島 与志雄

「文芸」1951(昭和26)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,998 字 · 15 页

青空文庫

そして今になって、別な顔が見えてきたのである。

別な顔、ではあるが、それがあの青服の少女の顔だと、どうして直ちに分ったのであろうか。自分の方に大きな罪悪があった、そのことが、意識されてきたからであろうか。

局面が違ってきたのである。

十内は先日、朝鮮戦乱のニュース映画を見た。

鉄道線路に沿って、避難民が列をなして歩いていた。皆ぼろぼろの服をつけ、足はたいてい跣で、小さな荷物を提げ、とぼとぼと歩いていた。恐らく、行く先も定かでないであろう。その夜の食事も当がないであろう。

老人があり、子供があり、若い男女も老人か子供のように頼りない姿である。赤児を背負った婆さんもある。そしてそれらの人々が、奇妙に、全く見知らぬ赤の他人の間柄に見える。互に言葉をかけ合うこともなさそうである。ただ黙ってとぼとぼと歩いている。身内の者、親子、兄弟、夫婦など、どこかではぐれ見失って、見知らぬ者ばかりの群れのようである。

言葉も記憶もない家畜の群れのようなその行列が、道路ではなく、鉄道線路に沿って歩いていることが、殊に佗びしく悲しい。一本の鉄道線路、それは無限に先へ先へと延びてる感じである。