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ひろば

広場

宮本 百合子

「文芸」1940(昭和15)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,809 字 · 31 页

青空文庫

話が切り出された初めから、ここに止って作家として活動すれば最低で二百万部は出版されるのであるしというような点は、朝子の心にそう深く刻まれなかった。朝子を感動させたのはそれよりも、ここに止って活動し得る作家としての評価であった。自分が作家としてそれにいくらかでもふさわしい者だという、その大きい駭きと歓びとの激しさであった。その感動が余りひどくて動顛に近い心の波をおこしたとともに、今、いいえ、まだ、と云いつつその心持の限りでは、こころからの受諾を感じるのであった。涙の浮ぶ混り気なさでそれが感じられている。でも何故それなら、いいえまだ、なのだろう。

朝子は同じ小テーブルの向い側にぼんやり見ていた素子の物を書いている頭のところへ、改めて我が目を据え直したという眼瞬きかたをした。そこまで考えを追いつめてみれば、もうそれは素子の感情などとは関係なく、この問題そのもののうちに含まれている何かが、朝子に「いいえ、まだ」もうすこし深まることがあると、微に、しかし決定的な粘りで蠢いていると感じられるのであった。

オリガの家の板囲いの塀を出ると、素子が、

「どう? すこし歩こうか、いや?」