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ひろば
広場
宮本 百合子
「文芸」1940(昭和15)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,809 字 · 31 页
朝子の心の輪のしぼりは更に小さく接近して、その絵模様をさぐろうと試みるのであった。が、それはいつも平面的な図取りとして、朝子の心に映って来るばかりであった。図取りの全部が見えている。そっちに見えている。だが、その図取りに自分が体で入って描き出している線というものはなかった。
新しく瞠られた探索の目をもって、朝子はすっかり自分自身の心の裡にとじこもってしまった。一緒に食事をしているようなとき、それから素子が誰かと話していて不図視線が合ったようなとき、朝子の二つの眼のなかには自分に沈潜しきって自分に向って何か問いただそうとしている真摯な集注した表情があらわれていることに、素子は屡々心付いた。そして、その眼つきの裡には素子もないし、朝子に止まることをすすめているひとのかげも入りこんでいない。そのこともまた感じられるのであった。
朝子がふらりと行先も云わず部屋を出て行って、何時間も帰って来ないようなことがはじまった。帰って来ると、寒い戸外の匂いを髪や外套につけて来た。
二人の感情は微妙に変化して、素子の眼が時々率直に心配をこめて、相変らず出るにも入るにも水色ジャンパーを着て思い沈んでいる朝子の姿に注がれることがあった。