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ひろば

広場

宮本 百合子

「文芸」1940(昭和15)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,809 字 · 31 页

青空文庫

雪でしめらされ、群集の湿気でむされる大鋸屑からは鼻のつんとするような匂いが立ちのぼって、午後の三時ごろからもう電燈の煌いている店内に、何とも云えず陽気な雰囲気をふりまくのである。

朝子は、三年前の十二月の雪の晩のことを思い出した。シベリア鉄道から停車場についたばかりの素子と二人が、馬車にゆられながら、幌から首をさしのぞけるようにしてどんな感動で降る雪の間に燦めいている商店の窓々やその上の方に暗く消えこんでいる夜空を眺めたことだったろう。それから何度この食糧店へも来たか数しれないわけだが、思えば、こういう平凡そうな日々の営みの中から今日までに自分が獲て来ているものを考えると、朝子は新しい感動を覚えた。今帰国をひかえて自分たちが当面している問題にしろ、それに対する自分たち二人の心理のそれぞれのちがいにしろ、心づかない間につみ重ねられて来ているその原因をつきつめてみれば、朝子にはやっぱりこの食料店の北国風の匂いも切りはなせないものとして考えられるのであった。

素子は専門のこの国の文学研究のために来た。小説をかく朝子は、アンナ・カレーニナなどという小説でごく身近に感じられている色彩の多い古い国、しかもそれが見ず知らずの新しいものになりかかっているという国、遠いところからの賞讚と誹謗とで渦巻いた中に遙に見える国の