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しょみんせいかつ
庶民生活
豊島 与志雄
「改造」1952(昭和27)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,353 字 · 21 页
冬のことで、峠の茶屋の硝子戸は閉めてあったが、その硝子を避けて、下框のあたりに、彼は砂利を投げつけていた。その時、近所の奥さんらしいひとが店にはいりかけると、その足元へ砂利を投げつけた。彼女はちらと見返ったが、素知らぬ顔をして店にはいった。店の中のおばさんも、素知らぬ顔をしていた。その様子から見ると、彼女たちは彼のことをよく知っていながら、酔っ払ってるから相手にしないという風だった。
彼女たちばかりでなく、実は私も、彼のことを知っていた。度々その店で出逢ったことがあるからだ。近くに住んでる内山昌二という画家だった。画家といっても謂わばよろず屋で、洋画を少し書き、雑誌の※(「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2-13-28)絵などを少し書き、漫画めいたものを少し書いていた。
内山が酒喰いなことは、たいていの人はみな知っていた。朝から酔っ払ってることさえあった。だが、往来ばたに坐りこんで砂利を投げ散らしてるのは、ちとひどすぎた。平素着の着流しに安物の下駄をはき、半白の頭髪をもじゃもじゃさしていた。怒っているのか面白がっているのか、顔の表情では見分けがつかなかった。