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きゅうどうちゅうそでん

弓道中祖伝

国枝 史郎

「キング」1932(昭和7)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,647 字 · 19 页

青空文庫

1

「宿をお求めではござらぬかな、もし宿をお求めなら、よい宿をお世話いたしましょう」

こう云って声をかけたのは、六十歳ぐらいの老人で、眼の鋭い唇の薄い、頬のこけた顔を持っていた。それでいて不思議に品位があった。

「さよう宿を求めて居ります。よい宿がござらばお世話下され」

こう云って足を止めたのは、三十二三の若い武士で、旅装いに身をかためていた。くくり袴、武者草鞋、右の肩から左の脇へ、包を斜に背負っていた。手には鉄扇をたずさえている。深く編笠をかむっているので、その容貌は解らなかったが、体に品もあれば威もあった。武術か兵法かそういうものを、諸国を巡って達人に従き、極めようとしている遊歴武士、――といったような姿であった。

「よろしいそれではお世話しましょう。ここは京の室町で、これを南へ執って行けば、今出川の通りへ出る。そこを今度は東へ参る。すると北小路の通りへ出る。それを出はずれると管領ヶ原で、その原の一所に館がござる。その館へ参ってお泊りなされ。和田の翁より承わったと、このように申せば喜んで泊めよう。さあさあおいで、行ってお泊り」

云いすてると老人は腰を延ばし、突いていた寒竹の鞭のような杖を、振るようにして歩み去った。