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つれづれぐさのかんしょう
徒然草の鑑賞
寺田 寅彦
「文学」1934(昭和9)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,582 字 · 14 页
もう一つ気の付いて少し驚いた事は、『徒然草』の中に現れていると思う人生観や道徳観といったようなものの影響が自分の現在のそういうものの中にひどく浸潤しているらしいことである。尤も、この本の中に現われているそれらの思想は畢竟あらゆる日本的思想の伝統を要約したようなものであるから、おそらくこの本を読まされなくてもやはり他の本や他の色々の途から自然に注入されたかもそれは分からないと思われる。しかしその時代に教わった『論語』や『孟子』や、マコーレーの伝記物や、勝手に読んだ色々な外国文学などを想い出して点検してみても、なるほどそれらから受けた影響もかなり多く発見されはするが、どうもこれ程ぴったりはまるものは少ないような気がする。つまり、中学時代の染みやすい頭にこの『徒然草』が濃厚に浸み込んでしまったには相違ないであろうが、しかし、それにはやはりそれが浸み込みやすいような風に自分の若い時の頭の下地が出来ていたのかもしれないと思われる。そういう下地はしかしおそらく同時代の日本の少年の、皆まででなくとも大多数の中に、多少でも通有なものではなかったかと疑う。もしもそうであったとしたら、この『徒然草』