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つれづれぐさのかんしょう
徒然草の鑑賞
寺田 寅彦
「文学」1934(昭和9)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,582 字 · 14 页
また第百十二段に大事の前に小事を棄つべきを説く条でも同様である。国のために、道のために、主義のために、真理の探究のために心を潜めるものは、今日でも「諸縁を放下すべき」であり、瑣々たる義理や人情は問題にしないのである。それが善い悪いは別として、そうしなければ大願望が成就しないことだけはたしかである。そういう「事実の方則」がこの書の到る処に強調されているのを見逃すことは出来ないのである。
かように、一方では遁世を勧めると同時に、また一方では俗人の処世の道を講釈しているのが面白い。これは矛盾でもなんでもない。ただ同じ事のちがった半面を云っているのであろう。
世間に立交わって人とつき合うときの心得を説いたものが案外に多い。これも現代にそのまま適用するものが多い。いわゆる「成功の秘訣」にでもありそうなことや、「英国風紳士道教程」の一つのチャプターといったようなもののあるのは面白い。第十二、三十六、三十七、五十六、七十三、百七等の諸段はその例である。いずれも平凡と云えば平凡のことであるが、この平凡事を忘れているために大きな損をしている人は現在の世間にでも存外多いらしい。