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つれづれぐさのかんしょう

徒然草の鑑賞

寺田 寅彦

「文学」1934(昭和9)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,582 字 · 14 页

青空文庫

というのは、現代の科学者が統計学の理論を持出してしかめつらしく論じることを、すらすらと大和言葉で云っているのである。この道理を口を酸くして説いても、どうしても耳に入らぬ人が現代のいわゆる知識階級や立派な学者の中にでもいくらでも見出されるのは面白い現象である。

尤も、第二百三十段を見ると、狐が化け得ることを認めているようであるが、これは当時の科学知識の水準から考えて当然の事である。今日の科学知識でも明日はどうなるか分からぬものはいくらでもあるし、また現代の科学者でも狐に化かされる人はいくらでもあるのである。狐の事は第二百十八段にもある。ここでは狐が喰い付く動物になっている。

第六十八段、大根が兵士に化ける話は少し怪しいが、次の六十九段と合せて読んで見ると寓意を主として書いたものとも思われる。

迷信とは少し事変るがいわゆるゴシップの人を迷わす例がある。猫又のゴシップの力で犬が猫又になる話や、ゴシップから鬼が生れて京洛をかけ廻る話などがそれである。現代の新聞のジャーナリズムは幾多の猫又を製造しまた帝都の真中に鬼を躍らせる。新聞の醸成したセンセーショナルな事件は珍しくもない。