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おほりばたさんだい
御堀端三題
岡本 綺堂
柳のかげ「文藝春秋」1937(昭和12)年8月、怪談「モダン日本」1936(昭和11)年9月、三宅坂「文藝春秋」1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,863 字 · 12 页
一 柳のかげ
海に山に、凉風に浴した思い出も色々あるが、最も忘れ得ないのは少年時代の思い出である。今日の人はもちろん知るまいが、麹町の桜田門外、地方裁判所の横手、後に府立第一中学の正門前になった所に、五、六株の大きい柳が繁っていた。
堀ばたの柳は半蔵門から日比谷まで続いているが、ここの柳はその反対の側に立っているのである。どういうわけでこれだけの柳が路ばたに取残されていたのか知らないが、往来のまん中よりもやや南寄りに青い蔭を作っていた。その当時の堀端は頗る狭く、路幅は殆ど今日の三分の一にも過ぎなかったであろう。その狭い往来に五、六株の大樹が繁っているのであるから、邪魔といえば邪魔であるが、電車も自動車もない時代にはさのみの邪魔とも思われないばかりか、長い堀ばたを徒歩する人々に取っては、その地帯が一種のオアシスとなっていたのである。
冬はともあれ、夏の日盛りになると、往来の人々はこの柳のかげに立寄って、大抵は一休みをする。片肌ぬいで汗を拭いている男もある。蝙蝠傘を杖にして小さい扇を使っている女もある。それらの人々を当込みに甘酒屋が荷をおろしている。