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おほりばたさんだい
御堀端三題
岡本 綺堂
柳のかげ「文藝春秋」1937(昭和12)年8月、怪談「モダン日本」1936(昭和11)年9月、三宅坂「文藝春秋」1935(昭和10)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,863 字 · 12 页
立ちン坊もまじっている。氷水も甘酒も一杯八厘、その一杯が実に甘露の味であった。
長い往来は強い日に白く光っている。堀ばたの柳には蝉の声がきこえる。重い革包を柳の下枝にかけて、帽子をぬいで、洋服のボタンをはずして、額の汗をふきながら一杯八厘の甘露を啜っている時、どこから吹いて来るのか知らないが、一陣の凉風が青い蔭を揺がして颯と通る。まったく文字通りに、凉味骨に透るのであった。
「凉しいなあ」と、私たちは思わず声をあげて喜んだ。時には跳りあがって喜んで、周囲の人々に笑われた。私たちばかりでなく、この柳のかげに立寄って、この凉風に救われた人々は、毎日何十人、あるいは何百人の多きに上ったであろう。幾人の立ちン坊もここを稼ぎ場とし、氷屋も甘酒屋もここで一日の生計を立てていたのである。いかに欝蒼というべき大樹であっても、わずかに五株か六株の柳の蔭がこれほどの功徳を施していようとは、交通機関の発達した現代の東京人には思いも及ばぬことであるに相違ない。その昔の江戸時代には、他にもこういうオアシスが沢山見出されたのであろう。
少年時代を通り過ぎて、私は銀座辺の新聞社に勤めるようになっても、やはりこの堀ばたを毎日往復した。