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ふくしゅう

復讐

豊島 与志雄

「風雪」1950(昭和25)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,806 字 · 20 页

青空文庫

いつのまにか立場が変って、私にあれこれと注意をする。結局今晩でも宜しいときまった。お座敷をつけて照代に逢い、遅くなってから、私が一足先に帰る。照代もすぐ家へ帰り、たいてい、いつもの通りじきに寝てしまうだろう。いい頃を見計って、表の戸の間に、お多賀さんが半紙をはさみ、端っこを少しのぞかせておいてくれる。それを見て、私が指先で軽くノックすれば、お多賀さんが戸を開けてくれる。あとは成り行き次第だ。

然し、私はその通りには従いかねた。すぐその晩は照代に逢いたくなかった。間合いがわるいのだ。数日の間を置いて、そして寝顔、いや、夢、とならなくては、私の心にぴったりとこないのである。

私はお多賀さんと別れてから、ひどく長いように思われる時間を過した。寄席にはいってみたり、映画館はいやになってすぐに飛び出し、酒を飲んだり、球撞きをしたり、夜店をぼんやり眺め歩いたり、なにやかや、自分でも忘れてしまった。心がめいり、ますます惨めな気持ちになった。

この心気の銷沈は、私には思いがけないことだった。失恋に似た感じだ。初め私は、ばかげた悪戯をしてるような気がしたり、真剣な試みをしてるような気がしたり、へんにちぐはぐな思いだったが、その両者が分裂したまま、次第に両方へ離れてゆき、中間に空虚が出来て、その空虚の中に私は陥っていった、