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ふくしゅう

復讐

豊島 与志雄

「風雪」1950(昭和25)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,806 字 · 20 页

青空文庫

」

「あら、ほんと?」

彼女は私の眼を見入った。

「怖い。」

炬燵の横手からずり寄ってきて、私の肩に縋りついた。

「ほんとなの。怖いわ。」

「本当さ。嘘じゃないよ。」

彼女は私に縋りついたまま、胸を大きく波打たせた。

「いや、そんなこと。もう言わないで。この室、あたし怖いわ。」

ふいに、全く自分でも思いがけなく、私は心の中で言った。「それ見ろ。」

彼女に向って言ったのか、自分に向って言ったのか、それは私にも分らない。それ見ろ。たった一言、それで充分だった。何だか分らないが、何かに、復讐してやったようで、すっとした。そして私は彼女を抱き寄せ、やさしくキスしてやった。それでもあとの空虚が、肌寒いような淋しさで、そして恐ろしかった。危い。情死……ばかな。私は彼女の胸に顔を押しあて、化粧の残り香をかぎ、肌の温みを呼吸した。それでも、なにか空しい。

「ねえ、僕の眼を見るんだよ。僕は君の眼を見るから。眼と眼と、じっと見合うんだ。」

「いや、そんなこと、いやよ。許して。」

「これっきりだ。一度っきり。」

むりに顔を挙げさせて、彼女に私の眼の中を覗かせ、私は彼女の眼の中を覗いた。