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ふくしゅう

復讐

豊島 与志雄

「風雪」1950(昭和25)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,806 字 · 20 页

青空文庫

つまり、夢にみたことを現実にやってのけること。

私は照代をまだ愛していた。深刻な未練はなかったが、さっぱりと別れてしまうほどの決心はしていなかった。彼女と馴染んでからさほど長い時がたったというわけではなく、単なる色客としての地位に満足していたし、彼女が新たな旦那の世話になることも、芸妓としては当然なことと考えていた。そして、彼女の方でも私を愛し続けてることと、内心では自惚れていた。

「あなたのことは、いつまでも、一生、忘れないわ。」

彼女は何度かそう言った。忘れないというのは、つまり、私の方から別れてゆかない限り、現状を続けてゆくことだと、そう私は解釈していた。ところが、夢によって判断すれば、忘れないとは別れることの予告だったようだ。

夢による判断、これは日常生活の場面では、児戯に類する。然し、私は自分の経験から知っていた。嘗て、或る恋愛に熱中していた頃、私は相手の女を一度も夢にみたことがなかった。醒めては常にそのひとのことを考えていても、夢にみることは、たとえ希っても一度もなかった。恋すれば夢にまでみるというのは、私にはどうも嘘に思える。却って、始終思いつめていたのがいつしか忘れがちになった頃、愛情が淡くなり消えていった頃、そのひとの影があまり心にささないほど疎遠になった頃、夢にみるものなのだ。