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びしょう
微笑
豊島 与志雄
「雄弁」1919(大正8)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,995 字 · 43 页
「では一つあの鳥打帽の人にやってみませんか。」と私は云った。
「やりましょうか。」
丁度その時、電車が来たので、その晩はそのままになってしまった。
実にそれは不思議な面白いことだった。一度顔を見た者にはすぐに話しかけてみる、名も知らず身分も知らない者と打ち開けた談笑を交わす、そしてまた互にふいと別れてしまう、それがうまくいったら世の中の有様ががらりと変ってしまいそうに思えた。陰険だとか奸黠だとかいう言葉は不用になって、至る所バッカスのお祭りだ。
私は次の火曜を待ちわびた。
火曜の晩、坂口を訪れて碁を囲んでいると、私の方が勝味が多かった。「幸先がいい」と私は思った。そして十二時になるとすぐに座を立った。
駅に来てみると、村瀬はまだ来ていなかった。電車がすぐに来たが、私はそれをやり過した。すると間もなく村瀬がやって来た。
「やあ失敬、随分待ちましたか。……そう、僕も急いでやって来たんですがね。今日はどういうものか馬鹿に勝負運がよくてね。」
「僕もそうだったですよ。屹度幸先がいいですね。」
私達は非常に嬉しかった。そしてあたりを見廻すと、二三人の人が居るのみで、それも見たことの無いような人ばかりだった。