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こころにうずくよっきゅうがある

心に疼く欲求がある

宮本 百合子

「中央公論」文芸特集号第四号、1950(昭和25)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,908 字 · 24 页

青空文庫

現代文学が、小市民の文学となってから、われわれは文学のうちにバルザック的典型を見なくなった。それにかわって、ささやかな、解決のない心理葛藤と状況のもつれを読んで来ている。

社会主義リアリズムは、社会的人間の、それぞれの典型を描き出そうとしているのだけれども、現在まで、わたしたちは比較的小さな典型しかとらえ得ていなかったと思う。それらの典型は、一つの典型であるにしても、そう大してわるくもないし、そう大してすばらしくもない。要するに市民的規模の典型であったと思う。「道標」以後の作品の中にも、いくつかの典型は見出されてゆくであろうが、それらの、多くは市民的スケールであるにすぎない。

権力からはなれて、つましき良心に立っているわたしたちの社会生活の範囲では、バルザック的典型は、つくり出される人物に属し、架空的であり、よいにしろわるいにしろ、こしらえものとしての感じを与える方がつよかった。プロレタリア文学が、英雄的な典型を見出そうとしたが、芸術を通じてその人物に読者の実感をひきつけ得ないことが多かった。ひとつの機微がこういうところにあったと思う。

ところが、この五年間に、わたしたちの典型に関する現実は非常に拡大された。