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こころのアンテナ

心のアンテナ

佐々木 邦

「現代」大日本雄辯會講談社、1937(昭和12)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,973 字 · 27 页

青空文庫

「私が?」

「えゝ」

「この年で?」

「何の年だって、西洋人を御覧なさい。皆洋服です」

「成程」

「似合いますよ」

「似合っても似合わなくても、あなたと私は名コンビですから、仕方ありません」

「名コンビは有難いですな。鞆作さんのヒットです」

「ヒットというと?」

鐘師匠は薬が利いた。元来進取的の人だから、至って自然に芸人という因襲から自己を解放してしまった。奥さんも美代子さんも満足だった。

「銀さん、お蔭さまよ、本当に」

と奥さんがお礼を言った。

「何う致しまして」

「少しお薬が利き過ぎたくらいよ。私にまで洋装をしろと仰有るんですから」

「結構じゃありませんか? お似合いになりますよ、奥さんは」

「まさか。こんなお婆さんが」

「いや、奥さんはお若いです」

と銀の字、如才ない。昨今少し野心が頭を擡げて来た。師匠夫婦の覚えが芽出度いにつれて、美代子さんが目につく。内弟子は自分一人だ。師匠の名跡を継げば、美代子さんが貰える。幸い嫌われていないようだ。

「師匠思いね、あなたは本当に」

と感心してくれた。誠意が通じているのだ。人間には心のアンテナというものがある。後五年で一人前の太夫さんになれるとすると、自分は二十九、美代子さんは二十だ。