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こころのアンテナ

心のアンテナ

佐々木 邦

「現代」大日本雄辯會講談社、1937(昭和12)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,973 字 · 27 页

青空文庫

「銀の字、お前は髪が長過ぎるよ」

「へい」

「短く刈ったら何うだ?」

「チックをつければ宜いんです」

「何を?」

「コスメチックです。一寸師匠には御用のないものです」

「…………」

「失礼申上げました」

「銀二郎!」

「へい」

「出て行け! 手前はもう破門だ」

と師匠は呶鳴って立ってしまった。銀二郎君は呆気に取られた。ついて行ったが、師匠は茶の間へ入って、襖を手荒く締めた。その辺をウロ/\していたら、奥さんが慌てゝ出て来た。

「銀さん、あなたは何うしてあの若がりの師匠に禿頭だの何だのって仰有ったの」

「そんなことは決して申上げません」

「それじゃ何と仰有ったの?」

「コスメチックは師匠に御用のないものですと……」

「同じことじゃありませんか? 禿頭だから、御用がないって意味でしょう?」

「あゝ、悪かった。笑って下さると思って、冗談に申上げたんですけれど」

師匠は虫のいどころが悪かった。尤も年々逆さまに年を取って、美代子さんが芳紀になるにつれ、一緒に歩いて愛人と思われては困ると言うくらいの若がり方だ。そこへ禿頭の連想を余儀なくされたのだから、憤るのは当り前かも知れない。恐縮した銀二郎君は奥さんに執り成しを頼んで、弟子部屋へ引き退った。