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こころのかわ

心の河

宮本 百合子

「改造」1924(大正13)年6月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,442 字 · 37 页

青空文庫

彼女は、逆に訝しそうに良人に訊いた。

「でも――当ったの?」

「珍しく直覚の出来がよかったね、オゥトミイルだよ二つとも」

「まあ……」

さよは、思いがけず、驚いた。彼女は「違うよ」と一言に否定されることを予期していた。彼女はそれをきっかけに、

「本当はあれが欲しかったのよ」と云う積りでいたのであった。彼女は自分がうまく当ったと思うより、良人がどうしてこれを、特に今日、買って来る気になったかと意外であった。

「私、今朝何とか云って? オゥトミイルのこと」

「いいや、云わないよ」

保夫は、さよの眼を瞠った顔から、自分の手柄を素ばしこく見てとった。彼は、さも自信ある良人のように云った。

「ちゃあんと判るさ、これ位のことは。顔に書いてあったのさ」

すっかり夕飯の後片づけがすむと、さよは明朝の準備に、碧色の二重鍋を火にかけた。中には、先刻のオゥトミイルが入っている。踏台に腰をかけ、料理台に両肱をもたせ、電燈の下で、煮える鍋の番をしながら、彼女は自分の気持を考えた。

もう半年も前であったら、こんなことでも自分はどんなに興奮しただろう。事柄はすっかり違ったが、矢張り小さなことで、良人と自分との気持がぴったり合っているのが判った時、さよは、愛はこんなに微妙なものかと、感歎しつくした自分を覚えていた。