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いかりのむし

怒りの虫

豊島 与志雄

「群像」1951(昭和26)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,457 字 · 24 页

青空文庫

それぐらいの気慨は持ちたいものだ。」

近くにいた洋装の崎田夫人が、まずいことを言った。

「木山さんのお洋服、御自慢なさるほどいたんでいないではございませんか。もしかすると、わたくしのシュミーズの方が、もっと擦り切れてるかも知れませんわ。」

木山は眉をひそめた。

「擦り切れたシュミーズなんか、打っちゃってしまうんですね。もしあなたの仰言るのが本当なら……ですよ。僕は、ワイシャツはいつも綺麗なのを着る。上衣は破けていたって構わない。御婦人がたは反対だと見えますね。」

「まあ、ずいぶん失礼なことを仰言るわ。もっとも、酒に酔っていらっしゃいますからねえ、ほほほ。」

崎田夫人は真赤になり、強いて皮肉な笑いかたをした。

あちらの席から、川村が声をかけた。

「木山君、僕の話が君の不興を買ったようだね。然し、真意は、僕も君に同感だよ。破れ服で世界をのし歩いたっていいさ。少しも恥かしいことはない。ただ、日本の文化は、経済は、産業は、破れ服のままではいけない。仕立て直さなくちゃいかんじゃないか。」

「ワイシャツは綺麗なのを着ることだ。」

木山はそう応じて、それから、酔っ払ってるらしく口ずさんだ。