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おもいだすかずかず

思い出すかずかず

宮本 百合子

「学友会雑誌」27号、誠之小学校、1921(大正10)年12月15日発行

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,924 字 · 10 页

青空文庫

恐ろしい緊張が皆を支配する。やがて、一尺か二尺、二枚の扉に隙が出来る。と、誰かが勇者の勢でそこから内に辷り込む。どっという笑声や喝采。あとから、あとから。ちゃんと門が開き切った時分には、恐らく誰一人往来に立って待ってはいないだろう。

入ってしまえばもう安心し、砂利の上で肱を張り張り歩いて左の方に行く。――

女の下駄箱は正面の左手にあり、男のは右手の方にあって、そこを抜けては小使が教室の用事を足した。両方ともが狭く、薄暗く、雨の日や冬は、寒い位ひやひやした。丁度、図書館の書物蔵のように、高くまで大きな箱が幾通りにも立ち、バタン、バタンと賑に落ちる蓋つきの小さい区切りが、幾十となく、名札をつけて並んでいるのである。

下のタタキに下駄の音をさせてその間に入り、塵くさいような、悪戯のような匂いを嗅ぎながら、柔かくなった麻裏を、ペタンと落して穿きかえる気持は、今もなお鮮に心の裡に遺っている。健康な、多勢な、まだ眠っている活気を、そこで第一に吸い込むのである。

考えて見ると、あの時分の小学生は、今の子供達とは随分異っていたものだと思う。こんなに靴を穿いている者はいなかった。