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きゅうこうじゅうさんじかん
急行十三時間
甲賀 三郎
「新青年」1926(大正15)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,724 字 · 24 页
「そうじゃない」
「あの方は本当にお年寄ですか」
「まあ、そうじゃろうな」
「何だか変ですが」私は思切って云って見た。
「変かね」
「ええ、変です」
「ふーん、君は中々偉いな」彼はじっと私の顔を見ていたが、「君の隣にいたのは何だね」
「私の連です」
「あれも可笑しいね」
「えっ!」
「変装しとるよ」
「そ、そんな事はないでしょう」
私はあわてて打消したが、考えて見ると、彼は昨夜木村探偵の添状を持って東京駅にやって来た彼の部下で、私を護衛して呉れる事になったので、云わば私には初対面だし、彼は何かの必要があって変装しているかも知れない。
「変装しとるよ。君に分らんかね」
「――」私は何と云って好いやら分らなかった。
「君の旧くからの馴染じゃないね」
「ええ」私は小さい声で答えた。彼の爛々たる眼に射すくめられて終ったのだ。
「ふん、心理作用じゃな。君は俺の隣の男を老人でないと云った。それは詰り疑っとるからだ。それに君は君の隣の男の変装を看破る事が出来ない。詰り信じとるからだ。信じているのと疑っているのと程、結果に影響するものは少いな。犯罪の成功不成功も詰りこれだ。信ぜられてると易々と成功するし、疑われていると、失敗するに定っている」