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きゅうこうじゅうさんじかん

急行十三時間

甲賀 三郎

「新青年」1926(大正15)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,724 字 · 24 页

青空文庫

友人になんと云って詫びれば好いだろう。友人はどんなに落胆するだろう。探偵は巧く取返して呉れるか知らん。とても難かしいだろう。

私の頭は取りとめのない事で渦を巻いていた。夜はいつの間にか明けて、すがすがしい朝の空気が靄に閉ざされた窓外から飛込んで来た。乗客はざわめき出した。

午前五時、名古屋駅に汽車が止ると、乗客は我勝ちに車を飛び出して、洗面所に駈けつけたり、弁当売りを包囲したりした。私は何をする元気もなく、腰掛の隅に小さくなって、頬骨の出た前の男がムクムクと起きて、窓の外に頭を突き出し、通りかかった駅員と何か話をしているのをじっと見ていた。

汽車が濃尾平野を横断して、伊吹山の麓を迂廻しながら、近江平野に這入っても、探偵も老翁も姿を見せない。前の男は平気でグウグウ寝ている。私はズキンズキン痛む頭を抱えてウトウトし出した。極度の緊張から驚駭へ、驚駭から失望へ、失望から弛緩へ、私は恐ろしい夢と、金を取戻した儚い喜びの夢を、夢現の境に夢みながら、琵琶湖の畔をひた走りしていた。

大津、京都、私は朧ろにしか知らなかった。

京都を過ぎる頃から私は少しずつ元気を恢復して来た。