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きゅうこうじゅうさんじかん

急行十三時間

甲賀 三郎

「新青年」1926(大正15)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,724 字 · 24 页

青空文庫

「ちょっ、とうとう鯛飯を買い損ねた」

と云って隣の老人を見たが、居睡りをしているので、彼は荒々しく南京豆の鑵に手を入れてポリポリ始めた。かと思うと彼は突然鑵を私の前へ突出した。

「どうです君一つやりませんか」

私は面喰った。薄笑をしながら、

「いや、どうも」と不得要領な挨拶をして終った。

「どこまで行くのですか」

彼は直ぐに南京豆の鑵を撤回して膝の上へ置きながら話かけた。余程話好きだと見える。

「大阪までです」

「君は若いにも似ず行儀が好いなあ」彼の話は少しも聯絡がない、「上衣をよく着てられるね」

私はドキンとした。何と思ってこんな質問をするのだろうか。

「ええ」私は曖昧な返辞をした。

「君は工科ですね」相変らず質問は突飛だ。

「ええそうです」

「何科だね」

「機械科です」

「機械科? 富山君はどうしてるかね」

富山と云うのは機械科の次席教授で世界的学者だ。

「相変らず御研究です。御存じなのですか」

「いやなに、知ってると云う程じゃない」そう云って膝の上の南京豆の鑵に手を入れたが、「君は南京豆は嫌いかね」

「いいえ、そう云う訳じゃないんですが」

「安くて美味いものだね、ヴィタミンを含んでると云うよ」