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あやしのもの

怪しの者

国枝 史郎

「日本伝奇名作全集4 剣侠受難・生死卍巴(他)」番町書房、1970(昭和45)年2月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,259 字 · 25 页

青空文庫

それじゃア……」

「何がさ」

「隣の部屋に紅裏の布団が敷いてあるってことさ」

「ばからしい、……わたしゃア小母様が病気だから、ちょっと見舞いに行って来るといって、お暇をいただいて来たんだよ」

「ありもしない小母様に病気をさせて、情夫に逢いに来るなんて、隅に置けない歌舞伎者さ」

「その歌舞伎者で心配になったよ。行き倒れ者に自分を仕組んで、持田様へ抱え込まれ、ずるずるべったりに居ついてしまって、お嬢様をたらしたあの鶴吉、わたしの居ない間に、二番狂言でも仕組んで、わたしたちを出し抜きゃアしないかとねえ」

「それじゃアすぐに帰る気か」

「どうしよう」

「じらすのか。……それともじれているのか……」

「あれ、痛いよ」

見る眼に痛い絵模様となりましたので……。

七

相変らず菰をかむり、竹の杖をつき、面桶を抱えた、乞食のわたしが、庄内川の方へ辿って行きましたのは、それから五日後の夜のことでした。

化け物屋敷の前まで来ました。

一町四方もある、宏大なお屋敷は、樹木と土塀とで、厳重に囲まれておりまして、外から見ますると、内部の建物は、家根さえ見えないほどなのでございます。