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あやしのもの
怪しの者
国枝 史郎
「日本伝奇名作全集4 剣侠受難・生死卍巴(他)」番町書房、1970(昭和45)年2月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,259 字 · 25 页
と、胸にこたえるところがありましたので、いっそ蹴殺してやろうかと足を上げました。
四
ところが、お台所口から射し出している燈の光で、その男の地に倒れている姿が、女中衆や下男衆に見えたとみえて、飛び出して来て、
「可哀そうに」
「行き倒れだね」
「自身番へ知らせてやんな」
「何より薬を」
「水を持って来い」
などと、口々に言って、その男の介抱にかかったではありませんか。その騒がしさに不審を打ちましたものか、持田様のお嬢様と、そのお気に入りのお上女中のお柳さんというお方が、奥から出て参られ、
「気の毒だから家へ入れて介抱してあげたがいいよ」
と言われました。下男衆がその男をかかえて、家の中へ運んで行く時、その男の顔を覗き、
「好い縹緻ね」
とお嬢様のお小夜様が、お柳という女中へささやかれたのを聞いて、わたしは厭な気がいたしましたっけ。それというのも日ごろから、そのお美しさと初々しさとに、感心もし敬ってもいる、お小夜様だったからでございます。お小夜様のお年は十九歳でございましたが、すこし小柄でございましたので、十七歳ぐらいにしか眺められず、小さい口、つまみ鼻、鮠の形をした艶のある眼、人形そっくりでございました。