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かいきいっせきばなし

怪奇一夕話

岡本 綺堂

「中央公論」1935(昭和10)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,745 字 · 18 页

青空文庫

巨大なる爬行虫や奇怪なる大蛸のたぐいはモンスターと呼んでも差支えないのであるが、それ等を日本では普通に妖怪変化とは云わないようである。日本でいう妖怪変化の定義はなかなか複雑であるが、要するに「化ける」と云うことが第一義となっているらしい。

「化ける」とか「化かす」とか云うことになると、我国では狐と狸を代表的の妖怪変化と決定するに異論はあるまい。古いところでは姐己の狐で、日本では三国伝来九尾の狐などと云っているが、本家本元の支那では姐己の狐を認めていない。支那の学者の考証によると、正しい記録に狐妖を書してあるのは、秦の終りに彼の陳勝と呉広が兵を挙げた時、狐の啼声をよく真似る者を暗夜に出没させて「楚、興らん」と叫ばせたのを嚆矢とするそうである。陳勝等は楚の後裔とか称していたので、狐の告げのように粧って人気を得ようと巧んだのであるから、所詮は一種の計略で、真実の狐妖では無いのであるが、彼等がそういう計略を廻らしたと云うことは、一般の人間が已に狐妖を信じていた証拠であって、恐らくその以前から狐妖の説が民間に行われていたのであろうと云うのである。仮りに陳勝等の創意としても、その歴史は頗る古い。