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れんあいきょくせん
恋愛曲線
小酒井 不木
「新青年」1926(大正15)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,514 字 · 26 页
どうか、死んだら、くれ/″\も心臓を解剖して医学の参考にして下さい」と言ったそうだ。ちょうど僕の友人がその受持だったので、彼女の遺言に従って、僕がその心臓を貰ったのだ。
いま迄、兎や犬や羊の心臓を切り出すことに馴れて居た僕も、たとい死体であるとはいえ、その女の蝋のように冷たく且白い皮膚に手を触れてメスをあてた時は、一種異様の戦慄が、指先の神経から全身の神経に伝播した。然し、薄い脂肪の層、いやに紅い筋肉層、肋骨と、順次に切り進んで胸廓を開き、心嚢を破って心臓を出した時分には、僕はやはりいつもの冷静に立ち帰って居た。もとより彼女の心臓にひゞは入って居なかったけれども、心臓は著しく痩せて居た。これ迄、動物の生きた心臓のみを目撃して来た僕にとっては、はじめ、心臓らしい気さえ起らなかった。死後十五時間を経て居たが、異様にひやりとしたので、僕は切り出した心臓を手につかんだまゝ暫らくぼんやりした。はっと我に返って、暖かいロック氏液の中へ入れてよく洗い、次で箱の中へ装置して、ロック氏液を流すと、はじめ心臓は宛も眠って居るかのようであったが、暫くしてぱくり/\と動き出し、間もなく、威勢よく搏ち出した。