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れんあいきょくせん

恋愛曲線

小酒井 不木

「新青年」1926(大正15)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,514 字 · 26 页

青空文庫

予期したことではあるが、僕にはその女が蘇生したように思われ、何ともいえぬ荘厳な感に打たれて、僕はいつの間にか実験ということを忘れて、その微妙な運動を見つめた。そうして、その心臓の持主について考えた。失恋! 何という悲しい運命であろう。僕はその時、人ごとならず思ったよ。僕も同じく失恋の苦しみを味う人間ではないか。嘗てこの持主の生きて居た時分この心臓はいかにはげしく、又、いかに悲しく搏ったことであろう。その古い、苦しい記憶も、今はロック氏液によって洗い去られたと見え、何のこだわりもなく収縮、拡張の二運動を繰返して居る。恐らく彼女の失恋以後、一日として、この心臓は平静な搏ち方をしなかったであろう。搏て! 搏て! ロック氏液はいくらでもあるから、搏って、搏って搏ちつくすがよい。

ふと、気がついて見ると、心臓は著しくその力を弱めた。無理もない。搏ちかけてから凡そ一時間を経て居たのだ。思わぬ空想に時を費して、情緒研究を忘れて居た僕は、科学者としての冷静を失ったことを恥じつゝ、折角貴重な材料を得ながら、これを無駄にするのは勿体ないと考えた。そうして、咄嗟の間に思いついたのが、失恋の情緒の研究だ。