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おそろしきさくご
恐ろしき錯誤
江戸川 乱歩
「新青年」博文館、1923(大正12)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,075 字 · 46 页
狭い道、広い道、真直な道、曲りくねった道が、それからそれへと続いていた。
「だが、何というデリケートな、そして深刻な復讐だったろう。彼奴のも随分頭のいい復讐だったに違いない。併し、その復讐に対する、俺の返り討の手際が、どんなにまあ鮮かなものだったろう。天才と天才の一騎討ちだ。天衣無縫の芸術だ。彼奴がその前半を受持ち、俺が後半を受持った所の一大芸術品だ。だが、何といっても勝利は俺のものだ。……俺は勝ったぞ、勝ったんだぞ、彼奴をペチャンコに叩きつけて了ったんだぞ」
北川氏は、鼻の頭に一杯汗の玉を溜めて、炎天の下を飽きずまに歩き続けていた。彼にとっては、暑さなどは問題ではなかった。
軈て、時がたつに従って、彼の有頂天な、没思考力な歓喜が、少しずつ少しずつ、意識的になって行った。
そして、彼の頭には、漸く、回想の甘味を味うことが出来る程の余裕が生じて来た。
――それは三月ぶりの訪問であった。あの事変が起る少し前に逢った切り、二人は今日まで顔を合さなかった。
野本氏の方では、事変の悔み状を出したきり、北川氏の新居を訪ねもしなかったことが、蟠りになっていた。