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おそろしきさくご
恐ろしき錯誤
江戸川 乱歩
「新青年」博文館、1923(大正12)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,075 字 · 46 页
と喚いて躍り上る時の様に、躍り上った。そして、気違いの様に涎を垂しながら、ゲラゲラと笑った。夥しい汗が、シャツを通して、薩摩上布の腰のあたりをべっとりと湿していた。真赤に充血した顔からは、ぽとりぽとりと汗の雫が垂れていた。
「ワハハハハハハハハハハハハ、何という馬鹿馬鹿しい、子供だましなトリックだ。野本先生まんまとしてやられたね。エ、野本先生」
彼は大きな声でこう呶鳴った。
さて、北川氏が野本氏に話したことは、実は前の半分丈けがほんとうで、後半分は彼の復讐の為に考え出した一つのトリックに過ぎないのだった。
彼が妙子の死を悲しんだことは、実際野本氏に話した幾層倍か知れなかった。
彼女が死んでから半月計りというものは、学校の方も休んで了って――それが彼の職業だった――夜の目も寝ずに泣き悲しんでいた。「ママ、ママ」と母親の乳を尋ねる幼児と一緒になって泣いていた。
越野氏――あの火事の時に深切に手伝って呉れた越野氏が、彼の新居へやって来て、妙子の死因についてある暗示を与えたまでは、彼は彼女の死を疑う余裕さえない程、唯訳もなく悲嘆に暮れていた。
だが一たび越野氏の話を聞くと、彼は例の一本調子になって、悲しみを打忘れて復讐に熱中し出した。