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きょうふのくちぶえ

恐怖の口笛

海野 十三

「富士」1934(昭和9)年8月号~11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 60,713 字 · 122 页

青空文庫

と、豊潤な酒のような歌声が響いてくるのであった。――ジュリアは確かにいた。同じような肢体をもったダンシング・チームの中央で一緒に急調なステップを踏んでいた。

「幕を締めさせましょうか。そして舞台裏から一時に飛び掛るんですか……」

「うん、――」と、雁金検事は覗き穴から目を離さなかった。

「検事さん。早くやらないと、青竜王の生命が請合いかねますよ。――」

と、大江山も日頃の競争意識を捨てて、覆面探偵の身の上を案ずるのであった。

「うん。もうそう永いことではない。エピローグまで待つことにしようじゃないか。――それから青竜王のことだが、彼奴のことなら、まあ大丈夫だよ」

と検事は先刻とは打って変って、楽観説を唱えたのだった。

それには訳があった。――いま舞台の上に、赤星ジュリアの右側の方に、軽いタップダンスを踊っている燕尾服の俳優は、紛れもなく西一郎だった。つまり覆面をしていない青竜王は何事もなかったように、たいへん楽しげに舞台に跳ねまわっているのだった。雁金検事は前からそれをよく知っていたればこそ、青竜王の肩を持ったのであった。

だが青竜王は、傍から見るほど楽しく踊っているわけではなかった。