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きょうふのくちぶえ
恐怖の口笛
海野 十三
「富士」1934(昭和9)年8月号~11月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 60,713 字 · 122 页
「ああ、お気の毒なことをしました。最早、御臨終です」
と医師は脈を握っていた手を離して、ジュリアの遺骸に向い恭しく敬礼をした。
先ほどから、ジュリアの身体より遠くの方に遠慮していた雁金検事と大江山捜査課長とは、このとき目交せをすると、静かにジュリアの枕許に歩をうつして、ジュリアの冥福を祈念した。
「ジュリアさんの最後の舞台を見てくれましたか」と一郎は二人に声をかけた。
二人は軽く肯いた。
「あの最後を飾った素晴らしい踊は、ジュリアが吾れと吾が血潮を吸って、その勢いでもって踊ったのです。今日という今日まで、まさか自分の血潮を啜ろうとは思っていなかったでしょうに……」
といって、一郎は暗然と涙を嚥んだ。そして懐中を探ぐると一と揃いの覆面を出して、ソッとジュリアの枕辺に置いた。――これを見た大江山は始めて気がついたらしく、ハッと一郎の顔を睨んだ。
「ジュリアの死と共に、覆面探偵も死んでしまったのです。もう探偵をするのが厭になりました」
そういって青竜王ならぬ一郎は、卓越した手腕を自ら惜し気もなく捨ててしまった。
ジュリアの遺骸は、彼女と仲のよかった舞姫たちが、何処からともなく持ってくる白い百合やカーネイションやマガレットの花束で、見る見るうちに埋もれていった。