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きょうふのくちぶえ
恐怖の口笛
海野 十三
「富士」1934(昭和9)年8月号~11月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 60,713 字 · 122 页
「西一郎の住所は?」
「被害者と同じ家だろう?」
「冗談いっちゃいけませんよ、課長さん。被害者は下宿住居をしているのですよ。本庁はなぜ西一郎のことを特別に保護するのですか」
「特別に保護なんかしてないさ」
課長は椅子にふん反りかえった。
しかし被害者の実兄の住所を極秘にしていることは、何か特別のわけがなければならなかった。課長がすこし弱り目を見せたところを見てとった記者団は、そこで課長の心臓をつくような質問の巨弾を放ったのだった。
「三年ほど前、大胆不敵な強盗殺人を連発して天下のお尋ね者となった兇賊痣蟹仙斎という男がありましたね。あの兇賊は当時国外へ逃げだしたので捕縛を免れたという話ですが、最近その痣蟹が内地へ帰ってきているというじゃありませんか。こんどの殺人事件の手口が、たいへん惨酷なところから考えてあの痣蟹仙斎が始めた仕業だろうという者がありますぜ。こいつはどうです」
「ふーむ、痣蟹仙斎か」課長は眉を顰めて呻った。「本庁でも、彼奴の帰国したことはチャンと知っている。こんどの事件に関係があるかどうか、そこまで言明の限りでないが、近いうち捕縛する手筈になっている」