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きょうふのくちぶえ
恐怖の口笛
海野 十三
「富士」1934(昭和9)年8月号~11月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 60,713 字 · 122 页
「でも変ですね。痣蟹はあの恐ろしい横顔を知られずに、どうして昼日中歩いていられたのでしょう」
「ウン痣蟹は田舎者のような恰好をして、トランクを肩にかついで、たくみに痣をかくしていたそうだ」
「なるほど、うまいことを考えたなア。はははは」
「大辻はジュリアに会って日記帳のことを聞いたが、あたしは知りませんといわれたそうだ、まずいネ」
青竜王は自室に入ると、それから夕方までグッスリと睡った。
夕飯ができた頃、勇少年がベルを押すと、青竜王は起き出してきた。依然たる覆面のため、顔色は窺うよしもないが、動作は明かに元気づいてみえた。そして大辻も加わって久し振りで三人が揃って食卓についた。しかし探偵談は一切ぬきであった。それが青竜王の日頃のお達しであったから。――夕飯が済むと、青竜王は行先も云わずブラリと事務所を出ていった。
痣蟹はどこへ逃げてしまったろう。いま何処に隠れているのだろう。覆面探偵青竜王は戦慄すべき吸血鬼事件に対しいまや本格的に立ち向う気色をみせている。彼の行方はいずれこの事件に関係のある方面であろうということは改めて謂うまでもあるまい。だがその行先は暫く秘中の秘として預ることとし、その夜更、大学の法医学教室に起った怪事件について述べるのが順序であろう。