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きょうふのくちぶえ

恐怖の口笛

海野 十三

「富士」1934(昭和9)年8月号~11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 60,713 字 · 122 页

青空文庫

が、それはすぐ消えて、室内はまた暗澹の中に沈んだ。その代り、なにか重いものを引擦るようにゴソリゴソリという気味のわるい音がした。

一郎は教授に耳うちして、室内の電灯のスイッチの在所を訊いた。それは室を入ったすぐの壁にとりつけてあるということだった。彼は教授の留めるのも聞かず、勇躍飛んで出ると、スイッチを真暗の中に探ってパッと灯をつけた。たちまち室内は昼を欺くように煌々たる光にみちた。

「呀ッ、怪しい奴がッ!」

見ると黒板の左手にあたる窓が開いて、そこに一人の男が片足かけて逃げだそうとしていた。

「待てッ!」

と声をかけると、かの怪漢はクルリと室内に向き直った。ああ、その恐ろしい顔! 左の頬の上にアリアリと大痣のような形の物が現れていた。

「ああ、彼奴だッ」

一郎はそう叫ぶと、なおも逸って怪漢に飛びつこうとする蝋山教授の腰を圧さえて、教壇の陰にひきずりこんだ。

ダダーン。

轟然たる銃声が聞えたと思うよりも早く、ピューッと銃丸が二人の耳許を掠めて、廊下の奥の硝子窓をガチャーンと破壊した。一郎の措置がもう一秒遅かったとしたら、教授の額には孔があいていたかもしれない。