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きょうふのくちぶえ
恐怖の口笛
海野 十三
「富士」1934(昭和9)年8月号~11月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 60,713 字 · 122 页
今日は見習かたがた「赤い苺の実」の三場ばかりへ顔を出して貰いたいということになった。そして大部屋の人たちに紹介してくれた。
一郎はそれを報告のために、ジュリアの部屋に行ったが、鍵がかかっていた。それも道理で、ジュリアはいま舞台に出て喜歌劇を演じているところだった。舞台の横のカーテンの陰には批評家らしい男が二人、肩を重ねんばかりにして、ジュリアの熱演に感心していた。
「ジュリアはたしかに百年に一人出るか出ないかという大天才だ。見給え、どうだい、あの熱情とうるおいとは……。今日はことに素晴らしい出来栄えだ」
「僕も全く同感だ。どこからあの熱情が出てくるんだろう。ちょっと真似手がない。――」
「ジュリアには非常に調子のよい日というのがあるんだネ。今日なんか正にその日だ。見ていると恐い位だ」
「そうだ。僕もそれを云いたいと思っていた。僕は毎日ジュリアを見ているが、調子のよい日というのをハッキリ覚えているよ。この一日に三日、それから今日の四日と……」
「よく覚えているねえ」
「いやそれには覚えているわけがあるんだ。それが不思議にも、あの吸血鬼が出たという号外や新聞が出た日なんだからネ」