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きょうふのくちぶえ

恐怖の口笛

海野 十三

「富士」1934(昭和9)年8月号~11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 60,713 字 · 122 页

青空文庫

西一郎は、電話の終るのを待ちかねていたように、ジュリアに云った。

「青竜王本人が電話をかけて来たんですか」

「ええ、そうよ。――なぜ……」

「はッはッ、なんでもありませんけれど」

そういった一郎の態度には、明かに動揺の色が見えたが、ジュリアは気がつかないようであった。

青竜王の懸けた電話とは違って、本庁の方へは深更に及んでも「痣蟹ノ屍体ハ依然トシテ見当ラズ、マタ管下ニ痣蟹ラシキ人物ノ徘徊セルヲ発見セズ」という報告が入ってくるばかりで、大江山課長の癇癪の筋を刺戟するに役立つばかりだった。

その真夜中、時計が丁度十二時をうつと間もなく、今は営業をやめて住む人もなく化物屋敷のようになってしまったキャバレー・エトワールの地下室の方角にギーイと、堅い物の軋るような物音が聞えた。エトワールの表と裏とには、制服の警官が張りこんでいるのだったけれど、この地底の小さい怪音は、彼等の耳に達するには余りに微かであった。一体誰がその怪しい音をたてたのだろう。

このとき若し地下室を覗いていた者があったとしたら、隅に積んだ空樽の山がすこし変に捩じれているのに気がついたであろう。