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きょうふのくちぶえ
恐怖の口笛
海野 十三
「富士」1934(昭和9)年8月号~11月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 60,713 字 · 122 页
いやもっと気をつけて見るなれば、その空樽を支えた壁体の隅が縦に裂けて、その割れ目に一つの黒影が滑りこんだのを認めることができたであろう。
そこは隠されたる秘密階段で、さらにまた深い地底へ続いていた。用心ぶかくソロソロと降りてゆく黒影の人物の手は休みなしに懐中電灯の光芒の周囲の壁体を照らしていた。そのうちにどうした拍子かその反射光でもって顔面がパッと照らしだされたが、それを見ると、この黒影の人物は、かなりがっちりした骨組の巨人で、眼から下を黒い布でスッポリと覆い、頭には帽子の鍔を深く下げていた。覆面の怪漢――そういえば、これは例の問題男の青竜王と寸分ちがわぬ服装をつけていた。おお、いよいよ青竜王が乗りこんで来たのであろうか。
彼は静かに階段を下りていった。下はかなり広いらしい。江戸時代の隠し蔵というのはこんな構造ではなかったか。――下では何をしているのか、ときどきゴトリゴトリという物音が聞えるばかりで、いつまで経っても彼は出てこなかった。恐ろしい静寂、恐ろしい地底の一刻!
そのとき、どこかで微かに口笛の音がしたと思った。それは気のせいだったかも知れないと人は疑ったろう。