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きょうふのくちぶえ
恐怖の口笛
海野 十三
「富士」1934(昭和9)年8月号~11月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 60,713 字 · 122 页
その結果、彼は屍体の頸部に恐ろしいものを発見した。恐ろしい人間の歯の痕を!
それは傷口に近い皮膚のうえに残っている深い歯の痕だった。一つ、二つ、三つと、三ヶ所についていた。もう一つの歯痕は見えなかった代りに、当然そこに歯痕のあるべき皮膚面が抉ったように切れこんでいた。恐らく上顎の糸切歯がここに喰いこんで、四郎少年の皮膚と肉とを破り、頸動脈をさえ喰い切ったのであろう。ああ、何者の仕業であろう。人間を傷つけるに兇器にこと欠いたのかはしらぬが、歯をもって咬み殺すとは何ごとであるか。まるで獣のような殺し方である。大都会の真中にこんな恐ろしい獣人が出没するとは有り得ることだろうか。一郎は自分の眼を疑った。
「憎い奴、非道い奴!――こんなむごたらしい殺し方をしたのは、何処の何者だッ」
このとき一郎は、さっき聞くともなしに聞いた口笛のことを思い出した。その口笛が弟の惨殺事件になにか関係のあるだろうということは、もっと早く思い浮べなければならなかったのだけれど、彼はあまりに悲しい場面に直面して、ちょっと忘れていたのであろう。
「そうだ、あの口笛は誰が吹いていたのだろう?」